手仕事による温もりとミルクホワイトの風合いの気品のある陶器でその名を世界に広げたパリ発の「アスティエ・ド・ヴィラット(ASTIER DE VILLATTE)」。誰もが憧れるライフスタイルメゾンとなった彼らは、枠に囚われることのないクリエイションを続け、今や極上のお香やキャンドル、香水、ステーショナリーまで、私たちの日常を彩るアイテムを続々と発表しています。その秘密を紐解くと、ブランドの深部で“日本との驚きの縁”に辿り着きました。今回は、香りアイテムを中心にその歴史の扉を開きます。 このコンテンツは FASHIONSNAP が配信しています。

(左から)左からブノワ・アスティエ・ド・ヴィラット氏、イヴァン・ペリコリ氏
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創設者は、ブノワ・アスティエ・ド・ヴィラット(Benoit Astier de Villatte)とイヴァン・ペリコリ(Ivan Pericoli)の2人。両氏が生徒として、ともに通ったパリの名門美術学校「エコール・デ・ボザール(パリ国立高等美術学校)」で出会った芸術家コンビです。
絵画や彫刻について学んでいた彼らは、1996年にアスティエ・ド・ヴィラット家の兄弟姉妹や、エコール・デ・ボザールの友人たちとともにアスティエ・ド・ヴィラットを設立。現在では32カ国で展開する世界中で愛されるブランドは、近しい仲間たちによって始まりました。ブランドの創設以来、時に包括的ともとれるアイデアをもとに、歴史や伝統を手がかりにした美しいプロダクトを発表しています。
浴女にオマージュを捧げたオブジェ
Image by: ASTIER de VILLATTE
人の心を惹きつけるプロダクトを創出する上で彼らが重んじたのは、機械による大量生産ではなく、手仕事であることでした。ブランドの核であるアイデアは、「エスタンパージュ(estampage)」と呼ばれる型押しの手法や、“モノ”に宿る温かみや不完全さ、時間の痕跡のようなものに価値を見出していました。FASHIONSNAPの過去のインタビューでイヴァンは、「創業当時は古いものは消し去られ、現代的な新しいものに対する歓迎のムードが広がっていた時代で、美術学校でもそういった流れを感じていました。私たちはその潮流に抗って、むしろ温度を感じられるような古き良き手法や技術に焦点を当てて作品を創造する方法を選びました。“何を作るか”よりも、“どんな姿勢で作るか”を重視していたんです」と語っています。
広告戦略に頼ることなく、口コミによって高い支持を得た2人は、複数の創作活動を融合させることで唯一無二の世界観を生み出しています。ブランドの世界観を鮮やかに彩るアイテムは、その後、香りの世界へと広がっていきます。初めての香りのアイテム、オーデコロン。これはどのようにして生まれたのでしょう。
💡豆知識💡


ウェス・アンダーソン(Wes Anderson)の映画が着想源となったレターペーパーノートパット
Image by: ASTIER de VILLATTE
ジャンルに囚われることのない創作を続けるアスティエ・ド・ヴィラットが手がけているのは、陶器や香りのみに留まりません。実は書籍や文房具も展開しています。書籍に関しては、出版社を立ち上げるほどの力の入れよう。活版での書籍印刷を続ける世界でも貴重な工房のひとつ、ライ=レ=ローズの活版印刷所も彼らの活動の一部です。
2008年、ユーモラスに香る食器用洗剤「ディッシュウォッシングリキッド」を発売したところ予想外の大ヒットを記録します。その出来事が追い風となり、フレグランスの世界への扉が開きました。チームメンバーのエミリーは、当時日本の香料メーカーである高砂香料のスター調香師であったフランソワーズ・キャロン(Françoise Caron)の協力を得られるよう尽力。オーデコロン、ハンドケア製品、および壮大な香りの世界一周旅行をテーマに、パフュームキャンドルのファーストコレクションを発表しました。
その後も、ナタリー・フェイショール(Nathalie Feisthauer)やアレクサンドラ・モネ(Alexandra Monet)、クリストフ・レイノー(Christophe Raynaud)を始めとする才能豊かな調香師の協力を得て、パフュームキャンドルとオーデコロンのコレクションは広がっていきます。
陶器ブランドで広がる、本格的な香りのラインナップ
アスティエ・ド・ヴィラットが展開するオーデコロン
Image by: ASTIER de VILLATTE
2000年のパリ本店オープン時からセレクトによるキャンドルやコロンの取り扱いはあったと言います。そこには良質なものも多く、度々入手困難になることを経験したことをきっかけに、自分たちの香りの制作を考え始めた、と以前来日したブノワは筆者に語ってくれました。スタイリストのエミリー・マゾー(Emilie Mazeaud)とともに、初めての香料入りの製品を手掛けることになりますが、その実現にはフランソワーズ・キャロンとの出会いも大きかったと教えてくれました。
このような流れにおいて、2008年にブランド初となる香水(オーデコロン)を発し、 2008年後期にパフュームキャンドルとお香を展開。その後の2022年にはパルファンが登場します。
2026年現在、豊富なラインアップを備えるまでに広がった香りのアイテムですが、メイン調香師は2021年よりプロジェクトに参画したドミニク・ロピオン(Dominique Ropion)。翌2022年に同氏による初めての作品「アンブル・リキッド(Ambre Liquide)パルファン」が発表されています。
香りと世界観に酔いしれる、旗艦店をチェック旗艦店は、2026年7月現在で世界に5店舗。パリに2店舗、ソウルに1店舗、ミラノに1店舗、東京に1店舗を展開しています。さらにニューヨークのジョン・デリアン、サンフランシスコのスー・フィッシャ ー・キング、ロンドンのリバティ、伊勢丹新宿店をはじめとする世界32カ国の小売店でもアイテムを取り扱っています。
白い陶器の聖地 パリ本店は歴史ある建築を生かしたブティックパリ本店は、2000年にサントノレ通りでオープンしました。器好きにとって聖地ともいえるブティックは、1788年に筆記用具・扇子職人の工房として始まり、その後雑貨店として賑わいを見せた歴史を持つ建物です。アスティエ・ド・ヴィラットは、建築物に刻まれた風合いをそのまま生かすように、1号店のショップとして受け継いでいます。店内の壁面を覆い尽くすかのように並べられた美しい器やオブジェは、一度訪れた人々が思わず虜になる光景です。
パリの空気をそのままに 世界一の商品数が揃う日本の旗艦店アスティエ・ド・ヴィラット 東京フラッグシップストア
Image by: ASTIER de VILLATTE
そんなパリ本店と同じ雰囲気をまとった日本の旗艦店が、2025年12月、表参道にオープンしました。アイテムも本国同様に全て取り扱う店舗は、屋根に飾ったブランド名の頭文字“A.V.”が目印。2部屋から成るブティックで、上階の部屋にはアートギャラリーも設けられています。ライトグレーとブラックのイタリア産ヴィンテージタイルが碁盤目状に敷き詰められた床、緑と金の花模様の壁、ラックに飾った白い陶器――、彼らの美しい世界観が具現化された空間が、重厚感のある建物の中に広がります。
アスティエ・ド・ヴィラット 東京フラッグシップストア
所在地:東京都渋谷区神宮前5-2-11
営業時間::11:00~19:00 、不定休

インセンス「sao tome」
Image by: ASTIER de VILLATTE
気象条件に恵まれた淡路島は、日本一の線香生産地。千年に亘って父から息子へと、連綿と継承する“香師(こうし)”が伝統工法を用いた手仕事によって線香を生み出しています。その高い品質と香りの素晴らしさは日本国内のみならず、海外でも高く評価されています。ブノワ、イヴァンが淡路島の線香職人たちと運命的な出会いを果たしたのは、ニューヨークの行われたとある展示会でのこと。すぐに魅了された2人は、何度も打ち合わせを重ね、他にはない特別なお香を完成させました。
厳選した香木やハーブなどの植物を用いて手作業で作られる、お香(インセンス)。およそ30分の燃焼時間で、穏やかに香りを広げながら、静かな時間を刻みます。独自にリサーチした国内人気の香りを紹介します。聞きなじみのある日本の地名も多く登場し、創設者2人による日本への愛情を感じます。
アオヤマ(Aoyama)
Image by: ASTIER de VILLATTE
《価格》
各125本 1万340円
アーティスティックなデザインと陶器ブランドならではの風合いで、お香と肩を並べて人気を集めるお香立て(インセンスホルダー)。独自の視点でセレクトしたモチーフに少しの毒とユーモアを加えた類を見ない表現は、インテリアとして部屋に飾っておくだけでもおしゃれです。
セツコ キャット インセンスバーナー(7万2820円)
Image by: ASTIER de VILLATTE
📝Special Interview📝
唯一無二の存在感を放つインセンスホルダーを発表し続けるアスティエ・ド・ヴィラット。その理由をイメージ&コミュニケーション ディレクターを担うカミーユ・トゥイトゥ(Camille Touitou)に尋ねました。
⎯⎯ 魅力的なデザインばかりがラインナップしていますが、最初に発表されたのは、どのデザインだったのでしょうか?
「最初に2つのお香立て「エミリー(Emilie)」と「シャンス(Chance)」を発表しました。シャンスはクローバーのモチーフを中心にしたもので、幸運と時代を超えた魅力の象徴です。今日でもクローバーは、メゾンを代表する最も象徴的で永続的なエンブレムのひとつであり続けています」


エミリー インセンスホルダー(1万4520円)
Image by: ASTIER de VILLATTE
⎯⎯ モチーフを選定するうえで重視している点はありますか?
「アーティスティック・ディレクションは、風変わりなものへの愛と、過去への深い敬意に導かれています。トレンドを追うのではなく、多様な世界や、ときに忘れ去られたものからインスピレーションを得ています。例えば、使われなくなった建築の遺構やアンティークの装飾要素。歴史的な物語——マリー・アントワネットのデザインにみられる劇場的なロマンスから、私たち自身の歴史の1ページまで。空想的な動物たち——最近の“Monumento(モニュメント)”コレクションにみられるように」
香水のレシピは、香料とアルコールと水が中心となり、オーデコロンとパルファンの違いは香料の割合で分類します。それが賦香率と呼ばれるものです。ここでは、オーデコロンとパルファンの人気の香りを紹介しつつ、それぞれの香り方の特徴を解説します。
オーデコロンとパルファンの違い| 種類 | 賦香率 | 持続時間 | こんな人におすすめ |
|---|---|---|---|
| オーデコロン | 3〜5% | 2時間前後 | フレッシュな香りを楽しみたい |
| パルファン | 15〜25% | 5時間〜半日 | わずかな量でも豊かな香りを長時間まといたい |
香水のコレクションは、7種のオーデコロンから始まりました。残り香まで楽しめるフレッシュなシャワーは、主にシトラスノートをメインに据えた調香が特徴。香料を凝縮することで、パワフルな印象を与え、漂うかのように広がる香りが魅力です。
オー シック(Eau Chic)オーデコロン
Image by: ASTIER de VILLATTE
《価格》
各50mL 1万7270円、各150mL 2万6400円(スプレー)
パルファンは、旅先の香りを想像する「パルファン・デスティネーション」と、創設者の2人と調香師のドミニク・ロピオン、香水史家・人類学者・研究者のアニック・ル・ゲレールが出会ったことで誕生「パルファン・イストリック」の2つのグループが存在しています。美しいボトルデザインも人気を後押ししています。
マント・ラ・ジョリー(Mantes-la-Jolie)パルファン
Image by: ASTIER de VILLATTE
☝️ライターが指南「迷ったらコレ」☝️
今回紹介した香水の中で、迷ったら、圧倒的な人気を誇る「マント=ラ=ジョリー(Mantes-la-Jolie)」がおすすめ。ハーブの清爽でフレッシュな香りを感じさせる、ブランドらしい香りは、ほのかに甘さを与えています。セーブ川を見下ろすマンとの地を重ねるようなブルーのジュースはとてもユニークで、それも人気を支えているのだろうと思います。

Image by: ASTIER de VILLATTE
ワックス、香料、ガラスなどのすべてにおいて最高のものを目指して作られる、パフュームキャンドルコレクション。スター調香師と、独自の創作スタイルを持つデザイナーとのコラボレーションにより生まれています。滑らかさや柔らかさに高いハードルを課したレシピは、天然由来の独自成分だけで構成。大豆オイル、秘伝の植物や蜜蝋を配合しています。中でも人気の高い香りはリフィルも用意しています。
アオヤマ
Image by: ASTIER de VILLATTE

Image by: ASTIER de VILLATTE
山岳植物マスターワートを配合した、クリームとマイルドなリキッドソープ。贅沢に配合した天然成分で、毎日の暮らしで駆使するボディとハンドをケアします。細部にうるおいを与えながら、香りのエッセンスに包まれることでゆっくりと心をほぐしていきます。香りは、ビターオレンジの甘さと清々しさが広がる「オランジュ・アメール(Orange Amère)」とウッディとスパイシーな香りが重なる「アンペラトワール(Impératoire)」が揃います。
《価格》
ボディ&ハンド クリーム 各350mL 1万5400円
ボディ&ハンド ソープ 各350mL 9900円
創設者の1人であるブノワは、以前「香りは記憶と結びつきやすいものですから、思い出の地や焦がれ続けている未踏の地の名を付しています。その場所の香りをイメージしながら創っています」と香りの魅力について、教えてくれました。確かに不意に香りと出合った時に蘇る旧い記憶に、その土地での出来事などを思い出した経験はあります。そんな不思議な力を持つものであろう香りは、暮らしを彩るものだろうと改めて思わされました。それはどこか、音楽を聴いている時のような感覚を覚えます。
Akira Watanabe
エディター・ライター
日本版のフランス モード誌の編集部でキャリアをスタートし、編集プロダクションを経て独立。フィールドであるビューティ分野ではとりわけフレグランスが好き。
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