Interview & Text:蜂須賀ちなみ
Photo:森好弘
ホールツアー【Home Sweet Home TOUR 2026】の真っ只中、THE ORAL CIGARETTESはこれまで以上に“音”、そして“感情”と向き合っていた。今夏はアーティスト主催以外の「音楽フェスへ出演しない」という大胆な選択をとった彼らは、新たな挑戦としてデジタル・シングル「LIMIT」「VOICE」「Stay the way you are」を3か月連続でリリース。その中心にあった山中拓也の“心の揺らぎ”、そこから得た“未完成であることを肯定する”感覚とは――その想いを共有しながら、次のフェーズへ向け確かな一歩を刻む4人に話を訊いた。
ホールツアーでの“新しい試み”――ホールツアー【Home Sweet Home TOUR 2026】の東京公演を拝見しましたが、新しい試みが随所にあったので驚きました。
山中拓也(Vo. / Gt.):勉強になることばかりですね。ゲネリハからずっと、試行錯誤しながらやってます。同じ曲でもライブハウスとホールでは全然違って聞こえるから、「いつも通りやっても、ホールだと違和感あるかも」とスタジオで初めて気づくことも多くて。そこから「ごめん、雅哉とあきら、少し後ろに持ってってくれない?」って会話が生まれたり、リズムから全部見直すことになったり……。「こう修正しよう」「よし、一回録って聴こう」「まだ違和感あるな」っていうのを続けてたら、全然時間が足りなくなりましたね。しかも会場によって鳴りも変わるから、ツアーが始まってからもそれをずっと続けている感じです。
鈴木重伸(Gt.):自分自身で調整する部分もあれば、「この曲のノリ感って、こういうところに指標を持ったらいいんじゃない?」というアドバイスをスタッフからもらったり、PAさんから「こう感じたよ」と教えてもらうこともあって。
あきらかにあきら(Ba. / Cho.):ライブ中、僕らが一旦ステージから捌ける場面があるんですけど、その間に「今日こういう感じだな」と感触を確かめ合って、「じゃあこれ以降はこうしよう」みたいな話をする時間もけっこう大事でした。そういう会話を経て、またステージに戻るという流れは今回のツアーならではですね。
中西雅哉(Dr.):今回のツアーならではといえば、普段とは違うスタイルで演奏するセクションがあって。あのセクションの存在はすごく大きいですね。クリックを使わずに、メンバーの音だけで演奏する環境を経験したことで、普段のバンドスタイルに戻った時にも視野が広がった実感があります。
山中:そういうのも含めて、音楽的な感覚で、レベルアップできている実感がすごくあります。

――なぜ、こういう内容のツアーをまわろうと思ったんですか?
山中:ファンへの責任感でしかないというか。俺らがホールツアーをやっている今は、夏フェスがたくさん行われている時期で。お客さんは、時には夏祭りという一大イベントを蹴ってでも、俺らのライブに来てくれているんですよね。そこに対する大感謝が前提としてあって。「ホールツアーのオーラルも観てみたい」という期待感を持ってくれている子たちが来てくれているなかで、しっかりしたものを見せられるか、「やっぱりオーラルはライブハウスのほうがいいな」と思われてしまうか……というのは、俺らのこの先の計画における、ひとつの大きな分岐点になると思っています。「今後アリーナツアーを増やしていって、最終的にはスタジアムを目指す」「騒げるフロアも作りたいけど、お父さんお母さん世代が安心して来られる場所を作りたい」というのが今の自分たちのモードなので、今回のホールツアーで「もう席ありのライブはいいかな」と思われてしまったら、その夢がひとつ途絶えてしまうんです。だから、今回のツアーはすごく大事なんです。
――そんなツアーの最中に、配信シングルが3か月連続でリリースされました。このような形でリリースしようと思った理由や狙いを教えてください。
山中:理由はふたつあって。ひとつはファンへの感謝。夏フェスに俺たちが出ない間も、自分たちのファンにしっかり楽しんでもらえるコンテンツを作りたくて、「3か月連続でリリースしましょう、頑張って曲作ります」とマネージャーに提案しました。もうひとつは、「VOICE」という楽曲をホールツアーで鳴らしたかったから。そのうえで「VOICE」単体でリリースするのではなく、その前後の楽曲も込みで、自分たちのモードをしっかり伝えられるようなストーリーを作りたかったんです。
――1曲ずつ伺えればと思いますが、まず、7月にリリースされた「LIMIT」はいつ作った曲ですか? “オーラルらしさ”に囚われていないという意味で、「ENEMY feat.Kamui」や「BUG」と同じライン上にある曲だと感じました。
山中:コロナ禍に作った曲ですね。コロナ禍っていろんなことが制限されていたけど、ミュージシャンからしたら開放的な時間だった側面もあって。「ずっと家いるし、変な曲作ろう」「サブプロジェクトを進めよう」みたいなことがやりやすかったんですよね。俺にとってもコロナ禍は、曲をひたすら作る時間でした。この曲も「別にオーラルでやらなくてもいい」って気持ちのまま作ったんですけど、完成後も「この曲好きやな」ってずっと聴いていたんですよ。そしたらあるタイミングで、「ENEMY」や「BUG」のラインをお客さんがだんだん認めてくれるようになって。お客さんが「こんな音楽もあるんだ」「新しい世界だな」って気づき始めてくれた今この瞬間を狙って、俺の大好きなこの曲を出したいと思ったんですよね。
――実際ライブでも、かなり盛り上がっていましたよね。
山中:ライブもそうだし、SNSでティザーを公開した時もいいリアクションが多くて。ほぼ英詞の曲はこれが初めてなので、多少心配もあったんですけど、「やっぱり、みんなの音楽の受け皿が広がってるのかも」と感じられて、すごく嬉しかったですね。
――ビート然り、ループ構造然り、基本的にはダンスミュージックの作法に則っていると思うんですが、こういう曲はドラムが重要ですよね。中西さん、どのような手応えを感じていますか?
中西:日々ドラムと向き合っている中で、僕の中に理想のようなものがあって。今、その理想の一番近くにいるのが「LIMIT」という曲だと思っています。

――中西さんのイメージする理想のドラムは、どのようなものですか?
中西:僕はメロディ楽器だけでなく、ドラムに関しても、1曲通して聴いた時の流れが音楽的であるべきだと思っていて。オーラルの曲にトリッキーな箇所がある曲も多いけど、癖のあるフレーズも含めて、自分はナチュラルに叩けるようになりたい。その上で、理想を目指していきたい。だけどその壁は非常に高いので、日々試行錯誤しています。そんななかで、この曲を演奏している時の自分のスタイルやモチベーション、フレーズなどが、今のところいちばん理想に近いなとホールツアーをまわりながら感じている最中です。今までは漠然と思い描いていた理想を、より具体的なものとして捉えるきっかけをこの曲にもらっているなと感じています。この曲から得た学びを、他の楽曲にも落とし込んでいきたいですね。
―― 一転、8月にリリースされた「VOICE」は、山中さんのパーソナルなメッセージが込められたミドルバラードです。
あきら:僕、この曲を初めて聴いた時に不思議な感覚になったんですよ。「優しい曲やのに悲しい曲?」「何か悲しいことがあったのかな?」と思って。少し心当たりがあったので「この時の気持ちを歌ってる?」と聞いたら「違うよ」と言われたから、「違うんや……」みたいな(笑)。
山中:(笑)。
あきら:こんなに近くにいながら分からないという切なさもありつつ、ライブのMCから汲み取れるものは汲み取るようにしています。曲を書く人ってきっと感情の浮き沈みが人一倍激しいから、僕がのうのうと過ごしていた間にも拓也は悩んでたんやろうなって、リスペクトと申し訳なさが合わさったような感情になったんですね。今、ライブで拓也が歌っている姿や、お客さんが涙を流しているのを見ると、ちゃんと伝わってるんだなって。拓也のマイナスの感情から生まれたかもしれない楽曲が、誰かに伝わって、感情を揺さぶって、その姿を見て僕もまたグッときている——そんな感情の連鎖を生んでくれる曲だと感じています。

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